ワルシャワのショパンコンクールに行ってきた話
5年に一度、ポーランドのワルシャワで開催されるショパン国際ピアノコンクール。日本人コンテスタントが多く残っていることもあり連日Youtubeのライブ配信で大盛り上がり。
ん?チケットあるじゃん。
夜な夜な、あるわけねーかと思いながらウェブサイト見ると、3次予選のチケットがある。どうやらコロナのため席を飛ばして販売してたのを詰めて追加販売した模様。私の住んでいるドイツの街から電車で(飛行機はちょっと高かった)片道8時間ほど。いけるぞお!あさって朝の5時台の電車にのれば17時からの午後のセッションに間に合う!いけるぞ!今いかないで5年後行くのか?(いくかも)
着ちゃった・・・
普段なら4時台に起きるなんて絶対に、絶対に無理なのに遠足の前の日のようワクワク感で起きることができ、ワルシャワにも時間通りついた。(余談だがドイツの鉄道は超遅れる。なので時間通りにつくということもまた奇跡なのだ。)うおおお私があのワルシャワフィルに!ブーニンやユンディ・リ、一之瀬海くんや雨宮君がいたあのショパンコンクールの会場だああ!
最前列ウゥゥゥゥ!ではないけど前から3番目くらい!
当日券にもかなりの長蛇の列。ワクチンパスも提示して入場。お土産コーナーもあり、そこにはショパン・グッズを大量に買い占める日本人女性が!(難しいときもあるけどファッションと髪型からわかるよね!)休憩時間も日本語が聞こえたりして、こんなに観客に日本人がいるヨーロッパのコンクールorコンサートも珍しいのでは。なんかうれしい!
こんな素晴らしいものを聴いていいのか・・・
※これから出てくる演奏の感想はすべて素人によるものです。悪しからず!
この日の午後の部は、Alexander Gadjiev、Avery Gagliano、Martín García García、Eva Gevorgyan(敬称略)しょっぱなからゾクゾクする演奏のGadievさん。特に、半音階で乗降するところが、マジで物理的にゾクゾクする。すぎょい・・・しかもなんか悪魔的にかっこいい・・・Gaglianoさんはまだ20歳。に、にじゅっさいでこの集中力、この隙のない美麗な音って、集中力バケモノやんけ集中力オバケだ・・・・てか・・・演奏中に携帯鳴りスギィ!まじでびっくりするくらい演奏中に携帯鳴ってた。え?ここショパンコンクールよ?自分がコンテスタントの将来に影響を及ぼすとか怖すぎると思わないの・・・?本当にビックリ。携帯は切りましょうね。私なんか怖くて電源切った後4回くらい確認したわ。
そして休憩後、ミラクル。García García。はじめは彼の演奏中におっさんが唸ってる?と思ったけどどうやら歌っていた。それは別にね、グールドとか歌いながら弾く人はいっぱいいる。そうじゃなくて
なんだこの多幸感・・・
トリップというのだろうか。体験したことはないが、どこか別の場所にいる感じ・・・「あれ、ここどこだ?ワルシャワ・・・・?」みたいな。コンクールのはずなのにすごい体がほぐれていく。ああ、もはや彼は彼が弾きたいとか弾きたくないとかにかかわらず、人類に福音をもたらすために弾いてるんだな・・・(ポリーニとバルトリを生で聴いた時にも思った)
そして演奏後は、いつ終わるんだろうという拍手。(1分以上か?)いやー、このガルシア空気でこのあと弾く人は印象薄くなっちゃうか!???全くそんなことなかった。ここで17歳のEvaちゃんの登場。ガルシアとは全く違うショパンであっという間に会場を支配。すごいよ、Evaちゃん。人生何週目なの・・・・?
次の日はYoutubeカメラの真ん前。
次の日の午前セッションは、Nikolay Khozyainov、Su Yeon KimSouth Aimi Kobayashi ,Mateusz Krzyżowski(敬称略)。
午前の部のド頭って難しいよね、その時間にベストを持ってこなくてはいけないのって、夜型の人にはキツいだろう(逆もしかり)。しかしKhozyainovさんはそんなこと微塵も感じさせない。ホジャイノフワールド。もしかしたら朝型かもしれないけど、音楽家には朝型と夜型どっちが多いのか聴いてみたい。そしてKim嬢(勝手に・・・)。もう出てくるすべての音が繊細で美しい・・・韓国のピアニストすごすぎないか?
そして、休憩後の小林愛実様・・・ぎゃああ今回一番楽しみにしていた小林愛実さん・・・・もうなんといってもね、「雨だれ」ですよ・・しとしと静かに聴いてる人の心に染み渡る・・・ああこれは日本の雨かなあ・・・(とか言って本人に聞いてみたら案外アメリカの雨とかだったりして笑)こんなに美しい「雨だれ」を聴いていいのかなあ・・少しだけ静かに泣きました。全体を通して静かな語り口だったのに最後だけフォルテの表現が出てきて、そこに知性を感じる・・・すげえなあ。
そしてその後のMateusz君。ポーランド人のマズルカはすごいやばいって聴いていたんですが本当にすごい。血、とか言うのあんま好きじゃないけど血、なのかな。マズルカはダンスミュージックなんだな。踊りをわかっている弾き方・・・。
この日の午後の部のチケットは完売で、ワルシャワにいながらホテルでYoutube配信を見ていたのでした。
ワルシャワで食べたウキウキうどん。(写真が下手で申し訳ない)このためだけにワルシャワ来たいくらいおいしかった・・・
推しのいる生活・ショパコンロス・・・
現地に行って聴いて、ドイツに戻ってファイナルをYotubeで聴いて・・・束の間の推しのいる生活がめちゃくちゃ楽しかったのでショパンコンクールが終わってしまった今、「ショパコンロス」である。いや、コンテスタントが人生をかけて取り組んでいるコンクールを「推し」とか「ロス」などとエンターテイメントとして消化するとは何事か!って言われるかもしれない。けど、こんなにショパンコンクールを(物理的にも)感じたことはなかった。で、何が言いたいかというと、
その日ステージで演奏してる人が一番偉い
ふかふかの会場の椅子に座ってor家のソファから批判するのは簡単。Youtubeのチャット欄なんかみてると本当に言いたいことを言っている人がたくさん(ネガティブに)。けどステージで、しかもあのショパンコンクールで演奏してるって普通の精神状態じゃないと思う。そこで何が起こるかなんてわからないし、あんな素晴らしい演奏をしたコンテスタントの皆さんは本当にすごい、カッコいい、えらい、やばい。だから演奏がどうであれ、ピアノに限らず、その日ステージで演奏している人が一番偉いんだよなあ、と演奏家の端くれとして思うのでした。
おわり。